入れ歯
歯と入れ歯、長生きの秘訣
歳を取っても歯がある人は元気という昔からの言い伝え、聞いたことあると思います。実は、科学的な根拠があるのです。
自分の歯で噛めているかた、歯を失っていても入れ歯を使って噛めているかたは、体力の衰えがなだらかであることが近年の研究結果で分かってきました。
「平均寿命」と「健康寿命」の差=介護期間
日本人の現在の「平均寿命」は、男性で約80歳、女性は87歳に迫る勢いで延びていますが、「健康寿命」はというと、男性で約71歳、女性は約74歳にとどまっているのです。
平均寿命と健康寿命の差は、男性で約9年、女性では約12年もあります。つまり多くのかたが10年ほどの介護期間を必要としているということになります。
健康寿命と「歯」の役割
自分が高齢になったとき、体力低下を防いで長生きするには、体重が1年で2ー3kg減ったり、外に出かけるのがおっくうになるなどのフレイルの兆候に早めに気づくことです。
フレイルとは筋力が落ちたり、精神的な活力が落ちて虚弱になることをいいます。フレイルの特長は、放っておくと悪循環になってしまうことです。
筋肉量が減る→運動量が減る→食欲が落ちる→低栄養になる、といったように体力が衰えると気力が、気力がなえるとさらに体力が落ちてしまい虚弱化を進行させてしまいます。
また、高齢者のかたに多い転倒への恐怖心も、フレイルの悪循環の大きなきっかけになります。
十分に歩けるうちにエクササイズや運動で筋肉の減少を防ぐことが大切です。運動のほかに現在注目されているのが「歯」の役割です。
噛み合わせが良い人は生存率が高い
ある調査では、「噛み合わせが安定している」、「噛み合わせが不安定」、「噛み合わせがまったくない」の3グループに分け、生存率を調べた結果、噛み合わせがよい人ほど生存率が高く、噛み合わせがない人ほど生存率が低くなっていることがわかりました。
しかし、すでに歯を失ってしまっているかたでも大丈夫です。入れ歯を使っている場合と入れ歯を使っていない場合の生存率でも大きな差がでることが分かりました。
ご自分の歯が多数残っているのが理想ではありますが、入れ歯を使ってよく噛める状態を維持できていれば、より長生きすることができるのです。
歯や入れ歯があることで減らせる様々なリスク
歯や入れ歯があることで、転倒のリスクも少なくなることがわかっています。
高齢者の転倒によるケガの頻度は50ー70%にも達するといわれ、特に大腿骨の骨折はその後の生活に深刻な影響を与えます。
また、よく噛める人は食べられる物がない方に比べて多いため低栄養になりにくく、噛むことで脳の前頭前野が活性化されるので、自分の歯で噛める人も、入れ歯を使って噛んでいる人もボケにくいというデータが出ています。
つまり噛める状態で生活をすることによって、体力の低下だけでなく認知症予防にもなるのです。
若いころからの8020運動で将来の寝たきりリスクを減らす
歯科では現在、80歳になったときに20本以上の歯を残そうという、8020運動を行っています。
歳を取っても自分の歯で噛めることは、転倒予防や運動機能の維持、社交の意欲にもかかわっています。また、栄養摂取面でもメリットが大きいので、若い頃から歯の健康に気をつけて歯を残すことが、将来寝たきりのリスクを下げるために重要です。
ご自分の歯を失ってしまった場合にも、入れ歯やインプラントなどで補うことによりリスクを下げることができるので、歯を失って食べにくいと感じたら、かかりつけの歯科医院にご相談してみてください。
参考文献
nico2016.9月号